空泥棒

「うわあああ!!」
「なになに、うるさい。」

びっくりした。びっくりした。びっくりした!
瞬間移動でもしてきたのかこいつは。

「もう、なんでそんなにつきまとってくるんですか。」
「最初にも言ったじゃん、溶けてなくなりそうだって」
「私は人間です。」

彼は一瞬きょとんとした顔をした後、ふはっと吹き出した。
その様子に今度は私がきょとんとなる。
この人、こんなふうに笑ったりもするんだ。
何がそんなにツボに入ったのかはわからないけど。
彼は笑いを抑えて、こっちに向いた。

「たしかに俺もお前も人間だな。溶けたりしない。」

それはまるで自分に言い聞かせてるように。

「あの、名前伺ってもいいですか?」

とりあえずここまで失礼なことをいわれたんだから、名前ぐらいでも知っとかないと気が済まない。仕返しとかする気は無いけど。
彼は、私の目をじっと見つめた。
吸い込まれそうだった。
その真っ黒な瞳に、息を飲まれた。

「重要の要って書いて、かなめ。」

その三文字だけでなんかわかる。
彼の色。
明るい、空みたいな色だ。淡いスカイブルーの、綺麗な色。

「お前は?」
「あ、お、荻野陽です。陽気の、陽。」
「陽。いい名前。」