や、やっと着いた。
 記憶は肩をぜいぜい上下させ玄関に座り込んだ。
 まさか男の子だったとは。
 ピルピルピピ。
 エメルディアからのメールに記憶はほっとした。早速今あったことを
報告しよかと慣れない指で携帯を触る。
 エメルディア様怒るかも。言いつけを破っちゃたんだもん。
それでもいいか。早くあの笑顔見たい。
 するともう一度……ピルピピ……携帯が鳴った。
 嫌な予感がした。
「遅かったな」
 上を見上げると大きな黒い翼の悪魔がそこにいた。


 「また寝不足ですか?記憶」
 どうやら記憶はうとうとと立ったまま眠ってしまったようだ。
 すみません。エメルディア様
 図書館の仕事に戻ろうと歩き出したのだが、記憶はふらりとよろめいて
エメルディアに支えられた。
「本当に大丈夫ですか?」
 だ、大丈夫です。
 昨日の出来事をエメルディアにはとても言えない。
 まさかメールの相手が男の子でそして


悪魔だったとは。


「俺は水連、見てのとおり悪魔だ」
 記憶は体の震えが止まらなかった。
 どうしよう。
 どうしよう。
「震えているのか?大丈夫。取って食ったりは
しねーよ」
 水連は記憶の頭に手を置いてなでた。
 不思議。思いのほか優しい手だった。
 じゃあ何のために天界にいるの?
 記憶は震える手で携帯のメールを水連へ送信した。
 水連の携帯のにぎやかな着信音。
 水連は不思議に携帯を見る。
「お前言いたいことぐらい言えよ。それとも悪魔なんかと
話したくないわけ?」
 記憶の肩をぎゅっと水連がつかんだ。
 きゃっ。
 でも言葉にならない。
 そこでようやく水連は気が付いた。

「お前喋れないの?」