そのあと、松井とたわいもない会話をした。中学時代から桜はどうやら俺の話をしていたらしいというのは松井から聞いた。
何故、友達にはそういう話しをしているのに、俺には会いに来なかったのだろうかと苦笑いをすこし浮かべてしまう。
それを尋ねれば、松井も肩を落としてはわざとらしくため息をつき、それは本人に聞けと言って呆れたような表情を浮かべていた。
「ところで」
そう言って、ソーサーにカップを置きながら松井が急に話をこちらに振ってきた。
「柳瀬くんの方は桜のことどう思ってるわけ?」
「え…、どうって…。何が?」
こてりと首をかしげては目を丸くして俺がそう言う。すると、それだけで理解したというようにやっぱり何もないというように首を振っていた。
なんだか、半分諦められているような気がしてならない。
むぅっとなりながら眉をしかめれば、仕方ないというように松井は頭を掻いて真面目な表情を向けた。
「君はとても優しい。好きでもない、気があるってわけでもない女子に対してまで気を使ってしまうところがある。だからこそ、桜にしている優しさがそういうのであるならばしっかり言ってあげて欲しい。君の行動が誤解を生むことだってあるのだから。何よりも、桜を泣かせるとか傷つけることがあれば私だって容赦しないから。」
笑顔で言われたその宣言のおかげか分からないが、背中にじんわりと嫌な汗が流れた。
泣かせるとか傷つけるとか、よくわからないが、きっと何かあるのだろう。
相手の雰囲気に呑まれてわかったと首を縦に振れば、松井は満足げに笑みをこぼして、カップに再び口をつけて、砂糖の入っていないコーヒーを喉に流し込んでいた。
