目の前には大きな楽器屋さん。ディスプレイには金色を飾る見たことのある楽器と、表には電子ピアノなどが置かれている。
「え…。俺、お金に余裕はあるけど楽器一つ買うお金は…。」
「楽器はあの子が欲しがってるとは思えない。いや、欲しいだろうけど、柳瀬くんに買ってもらいたいとはまだ思っていないと思うよ。ていうか、本当に知識外なんだね、こういうの。楽器屋さんってね、意外と雑貨とか置いてあるんだ。楽譜も豊富だし、楽器の備品とかもしっかり揃っていてね。吹奏楽部員は結構こういうところで必要な備品みながら学校に欲しいのをねだってるの。」
そう言いながら先に店の中に入っていく松井についていくように自分も足を動かした。
「で、今日私が提案するのは、これ。」
そう言って渡されたのは、収納用のA4ファイルだった。
「これ、ただのファイルじゃないんだ。楽譜ってね、書き込むものでさ。指揮者や先生にこうしろって言われたらペンでもシャーペンでもなんでもいいから書き込んでいくの。それで、真っ黒になるものなんだけどさ、普通のファイルだったら一回一回譜面を取り出すのすごく面倒なんだ。だけど、これ。」
説明しながら、ファイルを一枚開く。
「上部と下部にフィルムがあるだけで、真ん中はあいているから書き込みしやすくて。でも、少しだけ値段張っちゃうんだよね。」
「なるほど、買おうとしても買う気がしなくなるってやつ。」
「そうそう、ってことで、これのこの色おすすめしておく。」
そいって同じ種類の色違いを渡される。それは、ピンク色のファイル。桜の花がピンクだからかけ合わせてこうしたのだということがわかる。松井は松井なりに桜を気にかけてくれていることが妙にくすぐったくなってしまう瞬間だった。
