「おまたせ。」
思考を逡巡させている間に、時間ぴったりに現れた松井。黒髪を後ろで束ねて、ジーパンにパーカーととてもラフな格好で来ていた。パーカーは分厚いものなのか、上には何も羽織っていない。
シンプルだが、松井が着ると妙に似合うのは、松井の持って生まれた雰囲気とスタイルからだろう。誰にも媚びないイメージもまた悪いとは思わなかった。
「にしても、あんた相変わらず何着ても似合うね。私も人に言えたことじゃないけど、異性と出かけるんだからもっと意識とかしなかったの?ジーパンに無地のTシャツとジャケットだけって。ここ最近暖かくなっても寒くない?」
「大丈夫、寒さ対策にしっかりストール鞄に詰めてるから。」
「あ、そう?ならいいや。とりあえず行こうか。」
俺の反応に松井は小さくため息をついて俺の前を歩き始めた。その背中を追いかけるように俺も歩き出しては、松井の歩幅に合わせて少し後ろを歩く。
「どこ行くんだ?」
「それは、ついてからのお楽しみ。何箇所か絞っているから安心してよ。ところで、柳瀬くんは桜に何かあげようかなっていうのはいくつか目星つけてるの?」
そう言って俺の方を見て首を小さく傾げる。
「ああ、とりあえず、今日までの日。桜観察していくつか。喜ぶかはわからないけど。」
「ふぅん・・・、どんなのあげようと思ったの?」
「あいつ、本読むだろ?休み時間で、俺があまり構っていないときとか結構読書しているところ見てさ。俺だったら、本を上げたいところだけど残念ながらあいつの嗜好は分からない。ってことで、ブックマーカーを考えているのと、あとは、部活で使えそうなやつ。そこは俺は専門外だからどういうのだったら欲しいかは松井に少し見繕ってもらおうかなって。」
そこまで、言って松井を見ると、どこか満足げに笑みを浮かべていた。
「そこまで考えているのなら合格。私が考えていたのとほとんど一緒だしね。ってことで、まずはここから攻めていこうか。」
そう言って松井はとある店の前で立ち止まった。
