雪の音は静かに降り注ぐ桜とともに


きちんと桜を家まで送り届けてから家に着いたのは、もう20時すぎだ。親も家に帰っている時間。

玄関を開けると、晩ご飯のいい香りが届いてきて鼻をくすぶる。それと同時に、帰ってきたんだと実感させられた。

「ただいまー」

家の奥に聞こえるように言うと、奥から母からのおかえりなさいコールが返ってくる。それだけで安心して、一度部屋着に着替えるために自分の部屋にあがる。

2階建ての一軒家。狭くはないが広くもない。ホワイトカラー階級がローンを組んでやっと買えるような家。それが俺の家。

その2階には俺と両親の寝室がひとつずつと、トイレがあるくらいだが、これ以上家族もいないのでそこまで不便に思ったこともない。部屋も一人部屋にしては普通に広い。ただちょっと、本棚が大量にあって狭く感じるくらいだ。

クローゼットから適当にスウェットを引っ張り出し、灰色の長袖パーカーを着て制服をハンガーにかける。それから、ペタペタと裸足で1階まで降りれば、まずは洗い物を洗濯かごに投げ入れた。

そのあとに手を洗って居間へと入れば、既に父もいた。

「あれ、お父さん。早いの珍しいね。」

「今日は定時できりあげられたからな。お前は少し遅いな。」

「ああ、桜が吹奏楽に入ったから一緒に帰ったらこんな時間になっただけだよ。」

「さっき、琴子さんから連絡あったわ~。桜ちゃんを家まで送ってあげたんだって?」

琴子さんとは、伯母さんのことだ。

そんなことよりも、母のニヤニヤ顔が少し鬱陶しく感じた。まるで、恋人関係を期待しているかのような表情だ。

「伯母さんと透さんにお願いされているし、この時間に一人で帰らせると危ないから。お母さんの思っているようなことはないよ。」

半分投げやりにそういえば、自分の席に着く。既に、出来上がっている料理を見たら急にお腹がすいた。

横から、大きなお茶碗に山盛りに白米がもられたご飯が置かれてるのが前に置かれては、そのタイミングとともに手を合わした。その時、少しだけ頭を下げた。とたん、頭を思い切り撫でられる。

「偉い。そこから一歩ずつでいいのよ!!お母さん楽しみにしているから。」

まったくこの人は何を期待しているのかわからないと思いながら、白米を口に運んだ。