雪の音は静かに降り注ぐ桜とともに


練習が終われば、吹奏楽部の人たちは前に移動していた机などを元あった場処に直す。まるで何もなかったかのような行動は、勝手に教室に侵入したことを隠蔽しているようにさえも思えた。

その行為を終わらせ、メンバーが出て行く際、最後尾にいた松井の腕を引っ張る。

「っと…。え、何。」

驚いてこちらを見た松井に、異変に気がついたグループのメンバー。どうしたどうしたとこちらを見てくる中、松井はさらりと先に言っているようにお願いする。

俺は、不審がられると困るので廊下の方で話をすることにした。

「それでなんですか?」

敬語のスタンスを崩さない松井に少しだけたじろぎかける。

「いや、敬語じゃなくていいんで。俺もタメでいくし。」

「そ?ならそうする。」

あっさりと口調を変えれば途端に態度もどこかふてぶてしくなった。

「いや。頼みごとがあってさ。今度桜の家で桜の誕生日会するんだけど…。なにせ俺あいつと絡まなくなって結構立つし、趣味嗜好がちょっとわからないから。」

「はは~ん、それで中学からの親友の私に頼ったわけか。」

俺の言葉をすんなりと理解すればどこか嬉しそうにニヤニヤしている。

「桜のためとは仕方ない。この松井志保いっちょ一肌脱ぎますか!!」

口調が砕けたとたんキャラが随分と変わった気がするのは気のせいなのか。

腕を曲げて力こぶつくる真似をしながらどこか誇らしげな松井に、またキャラの濃い相手だと俺はため息をついた。