雪の音は静かに降り注ぐ桜とともに


サックスを吹いている人は合計7人。大きさがそれぞれ違うことと、最後の一人が入ってきた時のあの大きなサックスに一瞬ぎょっとした。

俺が持つとそうでもないが、女の子がもつと、体の3分の2くらいの高さのある楽器だ。

「…、あ、これ。バリトンサックスって言うの。サックスの中でも低音なんです。」

俺の驚いた顔にそのバリトンサックスを持っている女子生徒が照れたように笑う。

「これ、吹けるんですか?」

「吹けますよ?」

そう言ってひと吹きする。少し低い金属音が鳴り響いた。一瞬だけ地面が揺れ動いたようにも思えるその迫力に俺は目を大きく開かせて驚いてしまう。

その楽器を手にしているのが女子ということで更に驚く。

ずっと楽器に気を取られて吹いている人を見ていないと思い、そっと顔をあげれば、どこかで見たことのある顔…。黒髪ロングの美人さん…、とそこで思い出す。

「あ、松井志保さん?」

俺がそういうと、その当の本人はキョトンと一瞬だけする。しかし、すぐににっこりと笑顔を俺に向けて、

「はい、松井志保です。柳瀬雪くんだよね。桜からいつも話を聞いています。今日は教室提供させてくれてありがとうね。」

最後は軽く砕けた口調にはなっていたが、丁寧ないい子だと思った。桜が仲良くしているのも頷ける。

自己紹介がさらりと終わってしまえば、松井さんは楽器を持って吹奏楽メンバーと合流した。

俺も勉強を再開しようとしたとき、ポケットに入っている携帯が震えていることに気が付く。何事かと思えば、メールで送り主を見れば透さんだった。