雪の音は静かに降り注ぐ桜とともに


「あ、私、職員室行かなくちゃ。」

その声に惚けていた俺と澤田は我に返る。

「え、なんで。いきなりどうした。」

職員室に行かなくてはならないという言葉に、彼女は何かやらかしたのだろうかと一瞬不思議に思った。

何か悪さをするような姿見でもないし正確でもないのは、再会してからここ数分で理解できる。

なら、職員室に行く理由はひとつだけだ。

「私、今回新入生代表で言われてるから…。」

頬を赤く染めて照れたようにそう言っては、やっぱりと肩を落とす。

俺は、今回の入試では自己採点して結構いい点数を採れたと思っていたがどうやら従姉妹の桜に追い越されていたらしい。

そりゃ、俺に生徒代表の話が来るわけがない。悔しくてその場に固まっていたら、澤田が身を乗り出した。

「すごいな、柳瀬は。学年一位か!!」

その声があたりを響かせた。しかし、周りはあまり気にも留めていない。

っというか、澤田と桜の顔が近い。

とりあえず澤田を桜から引き剥がしては、少しだけ怯えたような表情の桜の頭を撫でる。

「次の定期テストでは絶対に桜越す。」

そう言っては小さく笑うと、桜はきょとんとした目でこちらを見上げた。

「人前出るわけだし、無理すんなよ。ほら、職員室まで一緒に行ってやるから。」

そう言って相手に手を差し出すと、桜は嬉しそうに頬を染めて俺の手に小さな手を重ねた。

「ってことで、入学式終わるまで別行動な。澤田。」

一部始終を眺めていた澤田はわかったと頷いた。

「あれで付き合っていないとか嘘だろ。」

俺の背中でそう言った澤田の声は俺らに届かずに、空気に溶けていった。