澤田のお陰か、一歩だけ桜が前に出た。しかし、俯き気味なのはあまり変わらない。しかし、俺の影から出たというのは大きな進歩だと思われる。
そんな桜は、ぴょこりと頭を下げた。
「や、柳瀬桜です。雪とは父方の親戚で、その、苗字は一緒ですが姉弟ではないですし、小5以来今日まであっていなかったので、彼女でもないですが。宜しくお願いします。」
一気にまくし立てて言ったその声は、さっきまでの小さく消え入りそうな声とは真逆だった。正に勢い任せて言ったという感じだ。
そんな桜にぽかんとしたのは俺だけではなく、澤田も同じだった。桜も桜でふぅふぅと少しだけ息切れさせて、自分の勢いにあとからじわじわと恥ずかしさが来たのか俺の後ろに隠れる。
その様子を俺も澤田も見れば、こみ上げてくるのは笑いだった。
ふたり揃ってケタケタと声を上げて笑い出す姿に桜は慌てふためき、縮こまった。その姿がどうしても愛おしく感じてしまったのは、桜のことを小動物みたいだと思ったからだろう。
俺と澤田と同時に桜の頭をぽんぽんと撫でては、よく頑張ったとこれまたはもって桜に言ったのだ。
その様子にぽかんとしたのは今度は桜の方である。
しかし、すぐに嬉しそうに満面の笑顔をこちらに向けた。途端、俺の胸がキューっと少しだけ掴まれたような感覚になった。初めての感覚に俺もどういうことかわからず、一瞬だけ惚けてしまった。
