鶏の生活は、私同様に昼夜が逆転していた。
夜明けとともに寝て日暮れとともに起きる、みたいな。
鶏の癖に。

脱法ハーブの卸売り、刺青師、闇医者とか。
彼の見た目から想像できる仕事はキケンなかおりがしたが、実際には拍子抜けするくらいまともだった。

ただ、少々変わっているかもしれない。

四階建てのビル全てを鶏は所有しているらしく、全部の階を行き来して仕事していた。

一階はショップ、二階は生活スペース、三階は作業全般と物置、四階はアトリエ。

大まかに説明するとそんなカンジ。

鶏は洋服のブランドをたった一人で立ち上げたらしい。
建物全体に鶏の趣味が詰まっている。
ひたすら奇抜でぶっとんでてクレイジーだ。

彼の仕事は社長兼、事務員兼、デザイナー兼、プロデューサーといったところだろうか。
つまり人を一切雇うことなく一人で全部やっている。

別に雇う余裕がないとか、そういうわけではないようだ。

ネット販売が主だというので検索してみたところ、完売商品の多いこと多いこと。
これは相当儲かっている筈だ。余裕は充分あるだろう。

それでもあえて人をつかわないのは。

何となく、聞かなくても私には鶏の気持ちがわかった。
多分、他人に任せたくないのだ。

自分には真の理解者なんていないと頑なに思っているのだろう。

かなりの頑固者ということだ。


「あのさぁ、居候してる身だからなにか手伝うことあったら任せてよ。」

「いらない。」

夜通しミシンを踏み続ける背中に声をかけてみても、彼は断る。

私はそれ以上はなにも言わず、黙って鶏の背中を眺めながら珈琲を飲んだ。長身の男が体をちぢこませて作業している姿は真剣そのもので、私はかける言葉もなくじっとしていた。



なかば無理矢理鶏のところに転がり込んで、既に二週間。
わかったことといえば、彼は凄く真面目な人間であると言うこと。
煙草と酒は手放さないが、賭け事もパチンコにも一切興味がないらしい。

それに

私だって一応女だ。その女と一つ屋根の下にいるのに、まるで手を出してこない。

私としては最初に持ち帰ると言ってきた時点で、そういうこともあると覚悟というか。心の準備をしていただけに拍子抜けしていた。