鋲を打ちまくったライダースジャケット。
まともな部分が一切ないダメージだらけのパンツに、大型犬につけるような首輪。

腰に巻き付いているベルトは二本で、どちらも本来の役割を果たしていない。

特徴的なのは鶏冠みたいなヘアスタイル。
緑と赤の髪はサイドをキレイに刈り上げて、モヒカン風にしてあった。

頭の先から爪先まで、ピエロみたいにカラフルだ。

首輪が巻き付いた長い首のせいで、鶏みたいだと思ったが、横の電柱を物差し代わりに計ると随分でかい鶏だ。180センチはゆうに越えているだろう。

そして長い首の先にちょこん、と控えめに乗っている顔はいたずらっぽくはにかみながらも綺麗に整っていた。

70~80年代のパンクだ。
私はちょっと感動した。マッドマックスに出てきそうな人間が目の前にいる。

平成生まれの私が現実で目にすることはないだろうと思っていたのに。
中途半端なヴィジュアル系やホモホモしいエモとは違う、本物だ。

パンク野郎が私の手首を掴む。
私はぼんやりとその顔を見つめながら、立ち上がった。
ばくん、ばくんと下手くそなドラムみたいに心臓が鳴る。

「本当に来んのか。」
「察してよ。」

私は横目でスーツケースを見た。




鶏の住まいは徒歩数分のところにあった。
古びた雑居ビルの中に、いかにもなカラフルなビルがあって、私は鶏とともに中に入った。

「あんたおかしいよ。俺こんな見た目だぜ。なにするかわかんないだろ。まわして山中にポイしようとか考えてたらどうすんの。」

二階の部屋のソファに腰掛けるなり、鶏は溜息をついて私に言う。

「そのときはそのときだけど。」

二人して煙草に火を着けた。

「おねーさん、いくつなの?」
「十九」
「…嘘でしょ。年下じゃん。ていうか、未成年…。」

そうだ。私はよく実年齢より大分年上に見られる。雰囲気とか話し方とかが大人びていると言われるけれど、私から言わせれば周りがもう少し大人になるべきだ。

「宜しくね。おにーさん。」

鶏の口調を真似て、私は煙を吐き出した。
鶏は手のひらで顔を覆った。