「玲央、シロップなにかけるー?」
冷蔵庫を前に私は声を張った。
夕方五時。まだ蝉はうるさい。
「何があんの?」
間の抜けた低めの声が近づいてきて、私の後ろから冷蔵庫を覗き込む。
近い。
「いちごとメロンとぶどうのカルピスとただのカルピス。」
高鳴る鼓動を無視して冷静に答える。
「あー、じゃあぶどう。」
ひょいと私の顔の横から血管の走るかくばった腕が伸びて紫と白の入れ物をとっていった。
「じゃ、私もそれにしよ。」
パタンと冷蔵庫をしめた。静かに深呼吸をする。
かき氷器に真剣な顔で氷をつめる玲央は、高校の時からの悪友。一日対戦ゲームをしたり、お互いオススメの音楽を教え合ったり、駅から学校まで徒競走を始めたりした、そういう仲だ。
そうしてその関係のまま、大学2年の夏休みを過ごしている。
仲良くなったきっかけは、何を隠そう私の一目惚れだった。高校に上がって同じクラスになって二週間で好きになった。
三週間目で告白して、友達から始めた結果がこれだ。きっともう、玲央は覚えてないと思うけど。
あの告白から五年目になろうとしているけれど、私の玲央への想いは募っていくばかりなのに両想いになる兆しは全く無い。
むしろどんどん男友達と同じ扱いになっていく。