「ええ、酷い。どうして?」
笑って私がそう聞くと、お兄さんも歯を見せるようにして笑った。
「夏帆もこの本に書いてあったけど、俺、〝その前髪だと、すごく暗く見えるよ〟って、初対面の人に言われたんだよ? そりゃあ、苦手意識は少しくらい持つよ」
その言葉とは裏腹に、懐かしそうに笑っているお兄さん。私は、そんなお兄さんの表情に胸がぎゅっと締め付けられた。
確かに私は、思ったことをすぐに口にしてしまう性格だった。
初日から「ねえ、前髪長すぎない? その前髪だと、すごく暗く見えるよ」なんて、私に言われてしまった彼は、その後、私のことを少し避けるようにして過ごしていたという。
だけど、私はめげずに彼へ何度も話しかけ、彼にしつこいくらいついて歩いていたらしい。
『ねえ、友達になろうよ』
『どうして』
『ええ、理由なんて聞くの? ただ、あなたと仲良くしたいだけだよ』
どうして、と問う彼に、私はそう真っ直ぐに答えたという。
彼は、誰かと仲良くすること。人と接することを怖がっていた。難病を抱える自分に自信がなかったこと。そして、そんな自分に大切なものができるのが怖かった。だから、段々と苦手ではなくなってきてしまった私のことを、それまで以上に避け続けた。
だけど、彼は負けてしまったんだと言って笑った。
私のことを避けきれないくらい、好きになってしまったと。自分の手で突き放せなくなるほど、私のことを知りたいと思ってしまうようになったと。

