翌日の8月23日。

 私は、今日もお兄さんと一緒にいた。いつもと同じように駅付近でお兄さんの姿を探し出すと、二人一緒に海へとやってきた。

 防波堤に並んで腰をかけ、海を眺めていると、突然お兄さんがこんなことを言い始めた。

「夏帆はさ、どうしてあの日、俺のことを見てたの」

「え? あの日?」

「初めて会った日。ほら、駅前のカフェのところで会ったでしょ。あの日さ、誰かに自分の姿が見られてることにも驚いたけど、何より、それが夏帆だったからすごく驚いた」

「あ、うん。覚えてる。あの日、お兄さんすっごく驚いた顔してた」

 そう答えた後で私は、どうしてあの日、カフェのテラス席付近で何かを探すような行動をしていたお兄さんから目を離せないでいたのか。それを思い出していた。


「テーブルとかイスの下を覗き込んでだから、何をしてるんだろう、とは思ったんだけど……その時に、長い前髪から見えたお兄さんの瞳がね、すごく綺麗だと思ったの。綺麗で、とても澄んでて。だから、目を離せなかったんだと思う」


 あの日、私は、長い前髪が浮いている瞬間に見えたお兄さんの綺麗な瞳に釘付けだった。綺麗で澄んだ瞳に、何かを感じていたのかもしれない。

 そう思っていたあの時の私の気持ちを、素直に伝える。そうすると、お兄さんは私の隣で照れたように笑った。