もう二度と昇らない太陽を探す向日葵


「どうして!どうして居ないの!」

 段々と、彼がいないという事実から逃れられなくなる私。逃げ出したくても逃げる方法なんて見つからない。

 受け入れたくはない現実と向き合う他に選択肢なんて無く、私は、昨日まで彼が居た病室で大きく声を上げて、この現実から逃げようと必死に抵抗していた。

 絶望的だった。彼がいなくなったという事は、私にとって生きる理由を見失うも同じだった。彼の出会ってからの私は、彼のために生きていたと言っても過言じゃなかった。そのくらい、私にとって彼は特別だった。

 私は、もう、どこを見ているのか分からないほどに視線を動かしたり、それを突然止めたり、自分の右手で左手をキツくつねったりしていた。

 痛い、と感じる左手が、これは夢なんかじゃないんだとまた私に現実を突きつけた。

 そんな私に、彼のご両親は顔を見合わせ複雑な表情をした。そして、しばらくするとお母さんの方が口を開いた。

「……昨晩、自分で腕を切ってしまったの」

 そう言った彼の母。私は、この言葉を聞いた後、落ち着かずにいた手足全ての動きを止めた。

 彼の命を奪ったのが、心筋症でも他の病気でも何でもなく彼自らが死を選んだ〝自殺〟だったという事を理解するのに数秒は掛かった。

 自殺なんて、嘘だ。そんな訳ない。だって、昨日、彼はあんなに私の前で笑っていたじゃないか。

 私は、もう今にも倒れてしまいそうな彼のお母さんの両肩をキツく掴み何度も揺らした。ただえさえ息子の死に心身共に弱ってしまっているというのに、私は容赦なく彼が自殺で死んだと言ったお母さんのことを揺らし続けた。

 「嘘だ嘘だ嘘だ」「あああああ」と、私は狂ったように声を上げた。私がいた8階の廊下には、しばらく私の悲鳴にも似た声が響いていた。


 ────2021年8月29日。

 私が誕生日を迎える二日前、私の大好きだった彼はこの世から消えた。

 彼は、20歳。大学三年生だった。