翌日、私がいつものように病院へ足を運ぶと、そこに彼の姿はなかった。それどころか、淡々とナースさんの手によって片付けられていくベッド周りに私はどういう事なのか状況がまるで理解できずに、ただ立ち尽くしていただけだった。

 すると、そんな私に気づいた一人のナースさんが私を見て小さく声を漏らした。そのナースさんは、この病室で何度か顔を合わせた事がある。私に何か言いたげなそのナースさんは、口をしばらくもごもごとさせて視線をあちらこちらに動かしていた。

「どうしたんですか?」

 どうして彼はいないんですか? と私が聞くと、ナースさんは眉を八の字に下げて、ゆっくり口を開いた。

「……昨日、亡くなられました」

 そう言ったナースさんに、私は「え?」と声を漏らした。

 だって、そんなはずがない。昨日、彼はとても元気だった。今まで苦しそうにしていたのが嘘だったかのように、昨日は、とても元気で、とても幸せそうにしていたじゃないか。いつも以上によく笑ってくれたし、いつも以上に優しくて、いつも以上に素直で、私に幸せをくれていたじゃないか。

「急な発作とか……ですか?」

 この時の私は、意外にも冷静だった。

 あんなに元気だった彼が突然この世から消えてしまったという事実は、それほど信じられないものだった。