『私が彼に出会ったのは、今から7年前の8月29日。長いようで短い夏休みが終わり、少し憂鬱な気持ちで学校へと登校した始業式の日。高校2年生だった私の通う高校に彼が転校してきた。それが、私と彼の最初の出会いだった。
クラスは違ったけれど、ある偶然がキッカケで私と彼は話をすることになった。私はどうしてか彼のことが気になり、突き放されてもめげずに彼に「仲良くしよう」と言って近づいた。気づけば、私達はとても仲が良くなっていた。
そして、私が、一人の男の子として彼に惹かれるまでにも、全くと言っていい程時間はかからなかった。
出会ったばかりの頃の彼は、肌が白く、とてもひ弱そうに見えた。目元まで隠れている比較的長めの黒髪が特徴的で、その、サラサラとした黒髪から時々見え隠れする瞳がとても綺麗だと思ったのを私は今でもよく覚えている。
背は、他の男子に負けず劣らずな高さで、細身の男の子。彼のいたクラスの女の子に聞いた話でも、彼は、他の男子とよく話す訳でも話さない訳でもなんでもなく、平凡だけれど、どこか少しだけ暗さを感じるような印象だったそうだ。
一方、常にクラスの中心的なグループにいて、誰とでも分け隔てなく話せるような明るい性格だった私。そんな私が、暗そうな雰囲気を持っていた彼と仲良くなるキッカケとなったのが、私のお気に入りだった向日葵柄のハンカチ。
当時、毎日洗濯し、毎日持ち歩く程お気に入りだったというのに、私は知らない間にそのハンカチを落としてしまっていたらしく、それを校内で見つけて、落し物箱に運んでくれたのが彼だった。
私の通っていた高校では、落し物箱が職員室前に設置されていた。私も、友達に言われるまでその落し物箱の存在を知らなかったのだけれど、そこには、落し物を届けた人がその落し物を見つけた場所と、見つけた自分自身の名前を書いたメモをつけて置いておくのが決まりだった。
もう、大人になる手前の高校生だ。小学生のように正直に自分の名前まで書いて置く人も少ないし、そもそも、落し物箱に落し物を運ぶ人だって少ない。だけど、私のハンカチは、その落し物箱の中にしっかりとメモ付きで置かれていた』

