家に帰らず、大学にも行かず、私はずっと病気と闘う彼のそばにいた。彼のご両親が来ている時以外は、ずっと、誰よりもそばで彼のことを見ていた。

 しかし、ある日、そんな私に彼はこう問いかけてきた。

「邪魔じゃない? 俺の存在」

 仰向けになって、真っ直ぐ天井を見つめていた彼の表情は驚くくらいにいつもと変わらなかった。だから、この時の私はこの言葉の本当の重みをすべて受け止められていなかったと思う。

「なに言ってんの。そんなわけないじゃん!」

 そんなこと言わないでよ、と私は笑って彼に返した。彼の表情は、さっきまでと何も変わらない。視線も、真っ直ぐ天井へと向けられたままだ。

 彼がいまいち何を考えているか分からないのは、いつもの事だった。だけど、この時ほど彼の考えていることが分からなかったことはない。

「ううん。邪魔になってるよ、十分。俺は、邪魔だって感じたならハッキリそう言って欲しい」

 相変わらず、彼の表情や視線の位置は変わらない。そんな彼に私は「だから、そんな事ないよ」と何度も返した。それでも彼は「そんな事ある。邪魔をしているっていう自覚が俺にはあるし、邪魔になってるって感じる」と私に返してきた。

 そんな風に言い合いをしているうちに、私は耐えきれず泣き出してしまった。思っていることがうまく伝わらなくて、彼に分かってもらえないことが悔しくて。泣いて、泣いて、泣きじゃくってしまった。

 私は「どうして分かってくれないの!邪魔なんて思ったこと、たったの一度もない!」と怒鳴るようにして言い放った後、病室を出てしまった。