「ホームレスじゃあないんだけどな……まあ、いいか。それじゃあ、お言葉に甘えてホワイトモカでお願いします」
そう言ったお兄さんは、イスに座ったままで頭を下げた。
「はい。かしこまりました。それでは、少々お待ちください」
わざとらしく敬語で話し続けるお兄さんに同調し、私も同じように硬い敬語で返す。そして、店内へと入りレジカウンターに並んだ。
カウンターで注文を済ませ受け取るのを待っている間、私は窓から見えるテラス席で腰をかけているお兄さんを見た。今日もいつもと同じ格好で、街並みを眺めているお兄さん。髪を切ったからなのか、初めて会った時よりも、ずっとすっきりとした印象だ。
だけど、私の瞳に映っている窓ガラス越しのお兄さんは、どうしてかこの世界には似合わないような気がした。何と表現するべきなのか分からないけれど、あまりに綺麗すぎて、儚なくて、少しでも目を離せば消えてしまいそうだった。
特に、お兄さんの瞳は、初めて見た時にも綺麗だと思った。とても綺麗で、吸い込まれてしまいそうなほど魅力的だ。だけど、今、街並みを眺めているお兄さんの瞳はどこか儚げで、切ない。
お兄さんは、今、瞳に映る街並みに何を思っているのだろうか。
「お待たせしました。ホワイトモカとミルクティーです」
「あ、はい。ありがとうございます」
お兄さんを見つめてぼうっとしてしまっていた私に掛かった店員さんの声。私はその声にはっとして、カップを二つ受け取るとお兄さんの元へと向かった。

