視線を浴びていないことに安心して安堵の息を漏らす。そして、私にサンダルを履かせて立ち上がったお兄さんを見上げた。
「ありがとうございます」
「ううん、いいよ。こちらこそありがとう」
柔らかな弧を描くお兄さんの唇。瞳は前髪に隠れていて、時々見え隠れするくらいだ。だけど、私は今、 彼がとっても優しい瞳をしているような気がした。
「あ、えっと、それじゃあ……私、そろそろ失礼します」
「うん。またね」
頭を下げ、お兄さんに背を向けようとした。そんな私に「またね」と言って右手を挙げたお兄さん。
私は、〝またね〟と言った彼の言葉に少しだけ違和感を覚えた。
あのお兄さんとまた会うことなんてあるのだろうか、と思いながら背を向けると、私は漫画の入った紙袋を両手に抱え直しその場を去った。

