「夏帆」

 優しく私の名前を呼ぶお兄さんと繋ぐ手を、私は更に力を込めて繋いだ。ぎゅっ、と力を込めた私の手を、お兄さんも優しく力を込めて握り返してくれた。

「怖い?」

 私は、返事の代わりに一度だけ頷いた。すると、お兄さんは「今ならまだ変えられるよ。未来」と優しく言った。

「……嫌だ。変えない。変えたくない」

 お兄さんの言葉に、私はやっと言葉で返事を返した。これだけは、絶対に変えたくない。絶対に、お兄さんのいない未来なんてつくりたくない。


「明日の朝、会いに来てよ」

 そう言ったお兄さんは、私と繋ぐ手と反対の手で、私の髪を撫でた。

「うん、行く。絶対に行く。明日、早起きしてお兄さんに会いに行く」

「よし、約束。それじゃあ、明日、待ってるから」

「うん!」

 私は、大きく首を縦に振った。


 明日お兄さんと会う。

 その約束だけで、また足を進めることができた私は、家の前に立ち、お兄さんの背中をずっと見続けた。

 小さくなっていくまで見つめて、目に、胸に、大好きなその姿を焼き付けようとしていた────。