「足が……裸足ですよ」

 お兄さんの前髪に隠れる瞳を探し、そこからお兄さんの足元に視線を移した。すると、お兄さんは「ふっ」と少しだけ声を漏らした。

「知ってるよ、裸足の事くらい。だって、裸足でいるのは俺自身なんだから」

 お兄さんの口角が上がった。不覚にも、私の胸はどくんと静かに、だけど、とても大きく高鳴った。

「でも、こんな所で裸足でいたら、足、踏まれちゃいます。あの、靴……私ので良かったら履きますか?」

 ちょっと小さいですけど、と小さく付け足して、私は自分の履いていた黄色いサンダルをお兄さんの前に置いた。そんな私のことを、お兄さんは柔らかに上げた口角のまま前髪の向こう側から見続けている。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。俺の足はすごく丈夫だから。それに、俺がこれを履いちゃったら、君の足が踏まれちゃうよ」

 ほら、履いて。と言ったお兄さんは私の前にしゃがみ込み、サンダルを私の足の前へと戻した。それから、私の右足に優しく触れると、その触れた足を右から順にサンダルへと戻した。

 お兄さんの行動に私は目を丸くした。今までに体験したことのない恥ずかしさで咄嗟に両手で顔を軽く覆い、横目でこっそり周りの視線を伺った。

 だけど、意外にも周りを歩く人たちは、誰一人としてこちらに目もくれず、それぞれ向かうべき場所へと歩き過ぎ去っていく。