お兄さんは、しばらく顔を上げて瞼を下ろしたままだった。そのうち、すぅ、と息を吸うような音が微かに聞こえてきた。次の瞬間に、お兄さんの優しい声が隣から飛んでくる。

「ああ、これで心置きなくいける。こんな事まで言われたら、成仏されるしかないね」

「うん」

「夏帆は、ずっとそうだった。いつも真っ直ぐで、俺にはとても言えないような言葉を人へ伝えることができる人。人に、真っ直ぐ大きな愛を与えることができる人。本当に、向日葵のような女の子だ。今も、未来も」

「……ん」

 なんと返せばいいのか分からなかった。下手に何かを返そうとして口を開けば、一気に涙腺が緩んでしまいそうだった。だから、私は声にならないようなこえで一言の返事をして頷いた。

 必死で涙を堪える。私も、さっきまでのお兄さんのように瞼をぎゅっと閉じた。

 熱くなる目頭に力を入れ、ぎゅっと瞼を閉じて、唇を噛む。ここまでしても溢れ出てしまいそうな涙だったのに。



「俺が、君の太陽になりたかった」



 お兄さんの、切実で、切ない、この声を聞いた時、必死でこらえていた涙は一気に流れ落ちた。