「ねえねえ、お兄さん」
「ん? なに?」
「お兄さんは、私が幸せになるようにって、未来を選ばせてくれようとしたよね。だけどね、私、私がどっちを選んでいても未来は変わらなかったと思うよ」
「どうして?」
「明日、私がお兄さんにお礼を言うためにお兄さんのクラスへ行かなかったとしても、絶対どこかですれ違うくらいはすると思う。そうしたら、多分、私はお兄さんのことを見つけて、この人に近づきたいって直感的に思う気がするの。ほら、えっと、これこそ愛のパワーみたいな感じで」
へへ、と笑って恥ずかしさをごまかす私。隣に座っているお兄さんの表情を確認すると、お兄さんは瞼を閉じて顔を空へと向けていた。
「お兄さん?」
瞼を閉じて空を見上げるようにしているお兄さんは、泣いているように見える。
私には、ぎゅっと瞼を閉じて、涙がこぼれ落ちるのを必死に防いでいるように見えた。
「泣かないで」
「泣いてないよ」
まだ瞼は閉じたままで、お兄さんが言う。
「でも、泣いてるみたいだもん」
「泣いてない」
泣いていない、泣いていない、と、お兄さんはまるで自分に言い聞かせるように言った。
私にはどう見ても既に泣きそうなのを防いでいるようにしか見えない。だけど、あまりにも頑固に「泣いていない」とお兄さんが主張するものだから、私は仕方なく「分かった」と言って納得してあげた。

