無意識のうちに、自然と止まった私の足の動き。そんな私の視線の先には、すらりとした細身の体型で、さらさらと流れるような黒髪のお兄さんがいる。年齢は大学生くらいに見えるそのお兄さんは、腰を屈めて、既に閉店しているカフェのテラス席にあるテーブルの下を覗き込んでいた。

 一度上半身を起こし、また違うテーブルの下を覗き込もうとしているお兄さんの目元まである長い前髪が少しだけ宙に浮いている。本来なら、あの長い前髪の向こう側にあるのであろう切れ長の瞳が、私の立つ場所からは見えた。そして、その瞳は澄んでいて、とても綺麗だということが分かった。

 私は、しばらくお兄さんを見ていた。見ていた、というよりは、目が離せなかったという表現の方が近いかもしれない。どうしてか、そのお兄さんから目を離せずにいた私の視線に気づいてしまったのか、お兄さんはテーブル前にしゃがみ込んだままで私の方を見た。

 前髪の奥から微かに見え隠れしているお兄さんの目が、とても大きく開いた。

 お兄さんは、自分の後ろを振り返り、それから私の方を見るという不思議な行動を何度か繰り返すと、ゆっくり立ち上がり、私の方へと寄ってきた。

 あ、見過ぎてしまった。どうしよう。怒られるかもしれない。

 そう思った私は、近づいてくるお兄さんに向け、咄嗟に頭を下げた。

「ごめんなさい!」

 大きな声でそう言う私の視界には、自分の足元が映し出されている。すると、その視界の中に、突然、裸足の両足が映り込んできた。

「え。お兄さん、足が……」

 ゆっくり顔を上げた。お兄さんは、白いTシャツにデニムのジーンズというラフな格好に加え、何故か素足だった。