静音は、放課後の教室で1人合唱の楽譜の整理をしていた。

手元のクリップは色とりどり。
赤、青、黄色、ピンク、紫

だけど静音の心は灰色に染まっていた。

憂鬱な気持ちで楽譜の整理を終えると静音ははあ、とため息をついた。

合唱部のマネージャーだからってこんな雑用を押し付けられるとは。
最初から楽譜を分けるようにしてしまえばいいものを、ぐちゃぐちゃにおいて、「ごめん整理お願いできるかな?」
なんて。
合唱部のマネージャーなんてやらなければよかった。
もともと合唱は好きだったし中学の頃は合唱部だったりもした。
強豪と聞いてこの高校に入ったのだけれど仮入部して初めて、静音は合唱することより聞くことの方が好きなんだと気づいた。
だから顧問に頼んでマネージャーにしてもらったけれどこんなくだらない仕事ばかりだと思っていなかった。

またひとつため息をついた時、
教室のドアが開く音がした。

「真由美、どしたの?」

はあはあ肩で息をしながら口角をきゅっと引き上げた真由美が立っている。

「柚季くんが合唱部の見学来た…!」

驚きの言葉に、静音は「はっ?」とまぬけな声を出す。

河本 柚季はもともとはバスケ部だったけど高1の終わりに辞めた。
そのあとは他の部活のどの勧誘にも乗らなかった。
そして、真由美の好きな人でもある。

「なんで河本が?」
「わかんない!でもとにかく来て!」

真由美に手を引かれ、静音は走って音楽室に向かった。

音楽室に入ると、そこには楽しそうに合唱曲を歌う柚季の姿があった。

「ねっ?」と喜びに満ち溢れた声色で真由美は囁いた。