カランと扉の開く音がして


「いらっしゃいませ」


とマスターの声。


ほのかな香水の香りがした。



「隣、いいですか?」


と女の声がした。


「ああ、どうぞ」


と俺は鞄と上着をどけた。



女は椅子に座ると「マルガリータ」と言った。


この時の俺には彼女の存在は全く眼中になかった。


ただ、一人で酒を味わっていたいだけだったから。



俺はお代わりを注文してから煙草に火をつけた。


すると


「火、貸して下さる?」


と隣の女が俺の方を見た。


俺は言われるままライターを持って彼女を見た。


目が大きくて童顔。


真っ赤な口紅が妙に浮いてる。


彼女は煙草を口に挟んで顔を近づけて来た。


俺はカチンとライターを鳴らして火をつけてあげた。



「ありがとう」


と彼女はニコッと笑った。


ノースリーブの黒の服から見える腕はやたら白く見えた。