なんだろう、と近づいていくと、いきなり、書類で頭をはたかれる。

「なんだって?
 もういっぺん言ってみろ」

「せめて訊いてから叩いてくださいよー」
と茅野は頭を押さえた。

「就職?
 何処にだ」

「それは言えません」
と威張ったように茅野は言ったが、秀行は鼻で笑い、

「どうせ、実家か系列の会社に雇ってもらったとかだろ。
 お前のようなとろくさい女。

 何処の企業や店が雇ってくれるって言うんだ」
と言ってくる。

「迷惑かける前にやめておけ」

 違いますってば、と言おうかと思ったのだが、じゃあ、何処なんだとうるさく追求されても困る。

 とりあえず、報告はしたぞ、と茅野はそこで黙ったが、秀行はまだ、勝ち誇ったようにひとりがしゃべっていた。

「だいたい、お前が少々稼いだところで、焼け石に水だ」

 今日、この言葉聞くの、二度目だな、と思いながら、茅野はそこだけは反論する。

「水もずーっとかけ続ければ、いつか石も冷たくなりますよ」

「ああそうか。
 せいぜい頑張れよ」
と秀行はまだ笑っていた。