両親が居なくなったあとの自分たちとはまた違う寂しさを味わうんだろうな、とちょっと同情してしまった。

 まあ、自分は親とは暮らしていなかったけど、それでも、やっぱり、事あるごとに思い出していたから。

 もう居なくて会えないのと、ただ会わないでいるのとでは違う。

 そこに居るはずの人が居ない、というのはもっと重いことだろう。

 だからかな、いまいち茅野ちゃんが穂積に向かって歩み出せないのは、と思う。

 茅野は情に厚そうだから、三年も一緒に暮らした秀行を男として愛してはいないとしても、家族としては、大事に思っているのではないか。

 それでも、やっぱり、なにか違和感を感じていたから、離婚したいと言っているのだろうが。

 茅野が門に手をかけ言う。

「どうぞ、玲さん。
 お茶でも淹れます。

 あ、なんだったら、一緒に食事して行かれますか?
 秀行さんはいつも遅いので、私、先にひとりで食べるんです。

 誰かと一緒だと嬉しいから」

 そのあどけなささえ感じる笑顔を見ながら、玲は、
「いや、遠慮しとくよ。
 ありがとう。
 また誘って。

 誰か居るときに」
と言う。