奈落と純愛


「待って」

 ちょっと強引にわたしを出口に引っ張って行こうとする陸を止めて、わたしはレジに向かった。

 レジ横のホットウォーマーからほっとレモンを両手に取り、会計を済ませる。

 陸は散歩を待ちわびた犬みたいに、うずうずと入り口の自動ドアにひっかからないところで待っていた。

 コンビニの白熱灯の下。

 ブレザーのジャケットと白シャツの間に長めのカーディガンを着て。

 学校指定のネクタイはせず、シャツの胸元を着崩して。

 少し染めた茶色の髪の下、かげりのないぴかぴかの笑顔を、わたしに向けている。

 わたしの彼氏。

 あ、もう、しあわせ。って、ぎゅっと、胸が引き絞られた。じん、と鼻が痛んだのは、……寒さのせいにしておこう。

「外、寒いからさ」

「さすが、香緒里」