奈落と純愛


 この瞬間だけは、繕おうとしても繕いきれない。

 陸のことは、性格は犬みたいだし、昔は猿だったし、未だに忘れ物と好き嫌いが多いことを知っていて。

 知り過ぎてて、他の女子みたいに、無邪気に「カッコイイ」と騒げはしなかった、けれど。

 歌声だけは違う。わたしはこのひとに夢中にされている、そう、感じる。

 付き合う前からそうだ。

 わたしがぼんやりしているように見えたのか、陸はふいに覗き込み、視線を合わせてくる。

「好きだろ?」

「はい?」

 いきなりなにを言い出すのだ。