奈落と純愛


 元々低かった声も、更に深みが増した。

 そのいい声で、女子とも気安く喋るし、もともと壁がなくてクラスの誰にでも優しいから、高校に入った陸は、いきなりモテ始めたのだ。

 なんかいいよね、なんて、陸のクラスの女子がトイレで話してたりするのを聞くたび、わたしは気が気でなかった。

 その中にはすごくかわいい子もいたし、大学生の男トモダチがいるような、進んでいる子もいた。
 
 あの時さ、ウケたよね、なんて、自分の知らない陸の話が聞こえてくると、いてもたってもいられなくなって。

 つまんない嫉妬が劣等感にからまって、陸にやつあたりして、喧嘩したこともあった。

 わたしは中学の時からほとんど変わらず、目立たない、ちょっと真面目なだけのクラス委員で。

 おしゃれでもかわいくもないし。

 人気者の陸には、もっとお似合いの子がいるんじゃないか、なんて、思うこともあったから。