そこで姫花が選んだのは、産科ではなく婦人科のみの病院

婦人科系の検査や不妊治療を主に行っている入院設備のない病院だった

ここなら、完全予約制で待ち時間もなく、不妊治療に通う女性の為に待合のプライバシーも完全に守られていたのだった

「日本で産まないのですか?」

担当医は最初、姫花の申し出に戸惑った

「はい お腹が目立つ前にアメリカに移ります なので、それまでの間の経過を診て頂きたいのと、アメリカの病院へ持っていく紹介状をお願いしたいんです」

姫花の必死のお願いに、担当医も首を縦に振るしかなかった

そうして、姫花は医師の守秘義務に守られ、誰にも知られることなく、この病院に通うことになった

姫花の悪阻(つわり)は激しく、常に胸焼けをしている状態で、肉・魚を一切受け付けなくなっていた

その割りに、夜中に急にフライドポテトが食べたくなったり、普段は口にしないいちごオレが飲みたくなったりと、嗜好の変化に戸惑いつつも、診察の度に手渡されるエコー写真が少しずつ人の形になっていく変化を楽しむ余裕さえ出てきていた

ただ、アリとジェイソンだけは最近AQUAに寄り付かなくなった姫花の変化に疑問を感じていたのだった

姫花はすこし膨らんだお腹を抱えながら、仕事をこなしていく

事務所には、“しばらくブランドの方に力をいれたいから”とスケジュールを入れないでおいてもらった

相当なわがままだが、ブランド立ち上げの構想段階から姫花がどれほど力をいれてきたか知っている事務所スタッフは、姫花の申し出を受け入れていたのだった

仕事と悪阻の間を縫って、姫花は自身のブランドのデザインを書き溜めていた

ネックレス・時計・バック・帽子・水着・・・

それらは期間を置きつつ発表していって欲しいというメッセージと共に

こうすれば、姫花の失踪は公にはならないと考えたのだ

メディアへの露出を控えているだけだと世間に思ってもらうために姫花が考えた苦肉の策だった