恋を知らない君へ




「うるさいのが来たぞ」


朝日が苦笑したのと同時に、勢いよくリビングの扉がひらく。


「葉」

「ちっす。ってどしたのみんな、立ったままで」


志保の視界に、華やかな金髪と鮮やかな笑顔が飛び込んできた。

少々軽そうな雰囲気ではあるが、二次元のキャラクターのような整った容姿と愛嬌のある笑顔がそれを超越している。

その彼がひょっこりと三人の間から顔をのぞかせると、志保と目があった。


「……あ、あー。ハイハイ、なるほどね」

「おい、葉?」

「ちあぽんの彼女ってことでオーケー?俺はね、小宮山葉(こみやまよう)って言うの、よろし…」


ニッと笑って志保へ差し出された葉の手を、千秋がパシッと払いのける。


「いった!ちょ、なにすんだよちあぽん!」


不服そうな目を向ける葉に、千秋は顔をしかめて言った。


「その流れ、もう三回目。飽きた」

「え?流れ?三回?なんのこと?」


わけがわからないといった様子で首をかしげる葉を横目に、千秋はその麗しい眉をさらにひそめる。


「てかなんでみんなして俺の彼女だって思うの?俺の部屋にいるだけで、朝日やたかみんのかもしれないじゃん」


その疑問にケロッとした表情でこたえたのは葉だった。


「へ?だってちあぽんこういうのタイプじゃん」

(………え?)


志保と千秋が同じタイミングでぽかんと口をあけた。


「……は、」

「あり?違った?」


ごめんごめん、と軽い調子で謝る葉を千秋がムッとした目付きで見つめる。


「…仮に彼女だったとして、こんなとこ連れてくるかよ。俺らは遊びに来てんじゃないんだぞ」

「だからごめんて。分かってるよそれは俺らも」


肩をすくめてみせる葉の影で、わずかに頬をそめた志保がうつむいていた。

そんな彼女の横顔を、なんとなく懐かしい気持ちで見つめながら、朝日は思案する。


(……うーん。あとで、ちょっと探り入れとくか)


微妙な雰囲気のただようなか、ふと思い出したように核心をついたのは貴海だった。


「あれ、でもまって。ちあぽんの彼女じゃないってことは、この子、家に帰してあげなきゃいけなくない?」


四人の視線が志保へと集中する。


「……そうだな」

「君、住所おしえてもらってもいい?いま車呼ぶから…」


それまで大人しく話を聞いていた志保だったが、貴海のその言葉を聞いた瞬間、ひどく焦ったように声を発した。