「ところで、誰か来てんの?」

「え?」

「靴。千秋のじゃないだろ?」


朝日が視線で促す先を見ると、明らかに千秋のものでない女物の靴がそこにはあった。

千秋はため息を吐き出す。


「ああ………うーんと、」

「千秋?」

「とりあえず、朝日も会ってみてよ」


意味ありげな千秋の言葉に首をかしげつつも、朝日はうなずいた。










「この子が、靴の持ち主」

「………は?」


通されたリビングのソファーの隅に、ちょこんと腰かける人影をみつける。

突然現れた千秋以外の人間に、志保も驚いたように目を見開いた。


「……あの、こ、こんにちは…」


ソファーから立ち上がっておずおずと頭を下げる彼女の姿に朝日は目を見張る。


「………」

「………、」

「…………………朝日?」


人見知りの強い彼にしては珍しく、初対面のはずの志保を失礼なくらい凝視していた様子に、怪訝に思った千秋が声をかけた。

名前を呼ばれて朝日はようやく我にかえる。


「……あ…っと、すみません」

「いえ……」

「なに、この子朝日の知り合い?」


気まずそうにお互いから目を反らすふたりを見て、驚いたように千秋が声を上げる。

けれどすぐさま朝日は首を横に振った。


「いや」

「ふーん?」


志保も無言でふるふると首を振っているのを見ると、どうやら知り合いではないらしい。

ささいな違和感を感じた千秋だったが、すぐにそれはかき消されていった。


「あ、俺、霧島朝日(きりしまあさひ)っていう者です」

「わ、わたしは深山志保と申します…」

「……深山さん」

「、は、はい…?」


まっすぐなまなざしに、志保もびくつきながら見つめ返す。


「よろしく」

「…え、あ、こちらこそ…!」


ふっと表情をゆるめた彼につられて、志保も安堵したように微笑んだ。


「って、ちょっと待って朝日」

「ん?」

「よろしくってなに、なんでいきなり自己紹介とかしてんの」


千秋の言葉の意図が読みとれず、朝日は不思議そうに首を傾げて言う。


「え?ふつうに挨拶じゃん。だって千秋の彼女だろ?」

「いや、違うけど」

「…ん?」

「彼女どころか、知り合いですらないんですが」


朝日は目をまたたかせる。


「……は?まじで言ってんの?」

「ああ」

「…………千秋、おまえ……」


わずかに真剣な表情になった朝日が何か言おうとしたのを、貴海の声が遮った。