一瞬、ふたりの間に沈黙が流れる。

しかしすぐに、千秋の落としたため息によってその空気は破られた。


「……ちょっと出てくる」

「はい…」


遠ざかる背中を、志保の切なげなまなざしが追いかける。


「……千秋くん」


吐息にまじってこぼれたつぶやきは、静寂のなかに溶けて消えていった。









「朝日」

「はよ、」

「…ん」


玄関へ向かった千秋が扉をあけるとそこには、彼に負けず劣らず精悍な顔立ちをした美しい青年が立っていた。

「朝日」と呼ばれた彼は、ふと目線を千秋から床へ下ろしつぶやく。


「ゴミ、なんでこんなとこにあんの?」


彼に言われて千秋ははじめてそのことを思い出した。


「あ。そうだ、途中だったんだ…」

「あ!朝日~、千秋~~」


千秋が最後まで言い終わるか終わらないかのタイミングで、ふたりを呼ぶ声が聞こえる。

「201」号室。

そこの部屋の扉がひらいて顔を出したのは、柔和な顔立ちの、千秋や朝日とおなじく容姿の整った青年だった。


「早起きだなあ、おまえら」


彼、向坂貴海(さきさかたかみ)も、今からゴミ捨てに行くところだったのだろう。

ゴミ袋を手に提げているのを見て、千秋が口を開いた。


「たかみん」

「お?どした、ちあぽん」


千秋はその完璧に整った顔を、美しく綻ばせて言う。


「ついでに、俺のも捨てといて」

「へ?」

「頼んだ」


世の女性たちに「王子スマイル」と称される微笑みを浮かべた千秋から放たれた言葉は、なんとも横暴なものだった。

貴海がなにか反論をしてくるまえに、彼にゴミ袋を押しつける。

しかし貴海は怒る様子もなく、まるでいつものことだと言うように軽く微笑んだ。


「ったく、おまえらはそうやって俺を便利扱いするんだ~」

「うんうん、ありがと、愛してるよ」

「…………くっ!仕方ねぇなあ!」


千秋に「愛してる」と言われ、仕方ないとは心にもない様子で彼は快く袋を受けとると、嬉しそうに階段を降りていった。


「あほだな、ありゃ……」


花を散らして去っていく貴海の後ろ姿を見送りながら、朝日がふっと吐息をもらす。

その彼が、不意に千秋へと向き直ると訊ねた。