「で?」

「え?」


見上げた彼女は、彼を見た瞬間、顔をこわばらせた。

さきほどとは違い、不信感をたぎらせた瞳で彼女を見下ろしてくる。


「なんで、あんなとこで寝てたの?」


彼女はおびえるように千秋を見つめたまま、なにも答えない。


「まさかとは思うけど、あとをつけてきた?」

「……」

「なにか目的があるの?」

「……」


沈黙を決め込む彼女に、千秋はため息を吐き出した。


「なんとか言いなよ」


呆れを含んだ声音に、彼女の瞳が微かに揺れる。

千秋はその目をじっと見据えたまま、さらに訊ねた。


「俺のこと、知ってる?」

「……いいえ」


しぼり出すようにして発した声は、かすれていた。

暫しの沈黙ののち、ふっと目を細めて彼は片くちびるを引き上げた。


「どうだか」

「……っ、」

「悪いけど、信用できない」


冷たく言い放たれた言葉に、彼女は何を思ったのだろう。

震えるくちびるで、言葉をつむいだ。


「、あの…わたし、ほんとに知らないです。見たことも、ないです。あなたに会ったのは、今がはじめてです…」

「………」

「…ええと、ど、どうしたら、信じてくれますか…?」


千秋は眉をひそめた。


(……なんだ?)


涙がにじむ彼女の瞳に見つめられ、なにかザワザワしたものが胸を覆う。

家の前で眠っていた見知らぬ女。会ったこともない、不審な女だ。

険しい顔で見つめる千秋に怯えているのか、彼女はたどたどしく言葉をつなぐ。


「本当に、知らないんです……それに、わたし自身なんでこんなところに来たのかも分からないですし」


最後の一言に、千秋がハッと目を見開く。


「……え?」

「ええと、あの…あんまり、覚えてないんですけど、ここに来ようとして来たんじゃなくて、ふらふらしてるうちに、勝手にたどり着いてた……みたいで」