恋を知らない君へ




「……」

「……」


暫しのあいだ、お互いを見つめ合う。

先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。


「…はれ?わたし………」


目をこすりながら起き上がる様子に、具合が悪いようではないということを悟る。

と同時に、千秋はへなへなとその場にしゃがみこんだ。


(はああ、よかった、生きてた…!)


自分の家の前で人が死んでるかもなんて、こちらが生きた心地がしなかった。

千秋はおおきく安堵の息をつく。

首に手をあててうなだれる彼の姿に、今度は彼女の方が戸惑ったように声を上げた。


「あ、あの……」

「…まじで、焦った」

「え、ちょっと…?!」


戸惑いの声が驚きに変わったのは、千秋が突然彼女の腕をつかんだからだ。

抗議しようとした声は、憤りを含んだ彼の瞳に呑み込んでしまう。


「…ーーっ!」


千秋は彼女の腕をつかんだ手はそのままに、家の中へと彼女をほとんど無理矢理引き込んだ。


「あの……」

「座って」

「、はい」


落ち着いた色味のソファーを指差され、おとなしく座る。

彼が怒っているのだろうということが、空気で伝わってきた。


「あのさ」

「…っ」


一息間を置いて発された声に、びくりと彼女の肩が揺れる。

怒鳴られる。

そう思ってぎゅっと目をつぶった彼女へ降ってきた言葉は、意外なものだった。


「気分とか、悪くないの?」


その声は怒りを含んだものではなく、彼女の口からは間抜けた声がこぼれた。


「……へ?」

「眠ってただけ?調子悪くて倒れてたとかじゃ、ない?」


おそるおそる彼を見上げると、心配そうな目と視線がかち合う。

千秋のその表情を見てはじめて、彼女は彼が怒っていたのではなく心配してくれていたのだということに気づいた。


「あの、…ええと」

「………」

「…大丈夫です。元気です」


首をすくめながら彼をうかがい見る。

彼女の言葉に、千秋はふっと表情を緩めた。


「そう。…なら、よかった」


言葉と一緒に、テーブルにお茶の入ったコップが置かれる。


「…ありがとう、ございます」


コップを両手で包むと、ひやりと冷たい感触が熱をもった手のひらに心地よかった。

こくこくと半分くらい飲んだところで、一度口から離す。

タイミングを見計らって、再び千秋が口を開いた。