恋を知らない君へ



「…ーーあのっ!」

「え?」

「わたしを、ここに置いてくれませんか?」


シン、と空気が静まりかえる。

唐突すぎて言葉も出ない四人だったが、志保の真剣な瞳に彼女が冗談を言っているわけではないようだということを悟った。


「……いや、だめに決まってるだろ」

「料理も掃除も、なんだってやります!どうかこの家に置いてください」

「だから、むりだって」


千秋だけを映した志保の瞳に、影が落ちる。


「……だってわたし、行くあても帰るところもないんです」

(………そんなこと言われたって、)


普通の感覚なら、出会ったばかりの素性も知らない人間を自分の家に住まわせるなんてしないだろう。

それに、彼にはそれ以外にも彼女を受け入れることが出来ないちゃんとした理由がある。

けれど深々と頭を下げる志保の姿に、千秋は息を呑んだ。


「どうか、お願い、します………」


彼女の震える声が、静かな室内に響く。


「………」

「………」

「………」

「………………んーと、あのさ」


誰もが途方に暮れていたときだった。


「俺、あんまよく分かってねーんだけどさ」

「……葉?」


彼はひと指し指を唇に押しあてて少しの間思案したあと、顔を上げて千秋を見つめた。


「でも、この子を最初に家に入れちゃったのはちあぽんでしょ?じゃあ最後まで面倒みてあげなきゃいけないんじゃないの?」


葉らしいシンプルな考え方は的を得ていて、全員がハッとさせられる。


「…それは、」

「ちがう?」


千秋は口ごもった。

さらに何か言おうとした葉の口を塞いで、貴海が続ける。


「そうだね、葉が正論だ。理由はどうあれ、ちあぽん、この子を部屋に招き入れちゃったその時点でおまえの負けだよ」


千秋はムッと眉を寄せて、せめてもの反論を試みた。


「……くそっ、おまえら他人事だと思って」

「他人事だもーん」


飄々と言ってのける葉に、チッと舌打ちをもらす。


「でも分かってるよな。何かあったときはおまえらも巻き添えだぞ」

「それは大丈夫でしょ。だってなんか、この子、俺らのこと知らないみたいだし?」


葉の視線を受け、志保は不思議そうに訊ねる。


「どういう意味ですか…?」

「いまはナイショ。まあ、そのうち話すよ」


流れるようなしぐさで彼女のくちもとを人差し指で塞ぎ、葉は美しくも不敵に微笑んだ。