…ーーそれは、身を焦がすような暑さにも慣れてきた頃、夏も中盤に差し掛かっていたある日のことだった。
都市郊外、ある田園風景のなかに小綺麗なアパートが一軒たたずむ。
それは普段よく目にするものとは少し造りが変わっており、人が住めるみたいになっているのは二階部分だけのようだった。
「………」
四部屋あるうちの、『203』と書かれた部屋で、ぐっすりと眠っている一人の若い青年がいた。
午前七時。
外では夏らしくサンサンと降り注ぐ日光も、中ではカーテンによっていくぶんか遮られ、エアコンによって快適な室温に保たれている。
「……ん、」
すやすやと眠っていた彼が、不意に身じろぎをした。
一度息を吸い込んでから、ゆっくりとまぶたが持ち上がり、ガラス玉のような瞳が顔をのぞかせる。
二、三度まばたきを繰り返したあと、ようやく焦点が合ってきたようで、緩慢な動作で上体を起こした。
「んー……」
あくびをもらしながら、おおきく伸びをする。
おおきな口をあけても、彼の綺麗に整った端正な顔は崩れることを知らない。
寝起きとは思えない軽やかな動作でベッドから床へ降り立つと、追うようにふわりとサラサラな赤毛が揺れた。
「…腹減った」
顔を洗ってサッパリしたかと思えば、今度は音を鳴らして胃が催促してくる。
後頭部をガシガシと豪快に乱しながら冷蔵庫を開けると、みずみずしい野菜と、コンビニの惣菜がアンバランスに並んでいた。
「あー…朝日が作ってくれたの、昨日食べちゃったんだっけ」
呟きながら、コンビニの惣菜の方を手に取る。
彼は小さく息をつくと、またたくまにそれと三合のお米をペロリと平らげた。