セールス婚 〜負け組仮確定の私が勝ち組に成り上がるまで〜


 大きく、はっきり、ちゃんと伝えた。だけど、そのあとは怖くて難波の顔が見られなかった。

 難波は今、どんな表情をしてるんだろう。どんな風にして、私の事を見ているんだろう。

 ここ数十年感じたことのないどきどきで胸が潰れそうになる。そんな私の頭上からは、少しだけ間抜けな声が降ってきた。

「え……何。これ、早川への逆プロポーズの予行練習か何か?」

 難波の顔は見られないけれど、今、難波は目を丸くしてとても間抜けな顔をしているに違いない。そう思うと、少しだけ笑えてきてしまった。

「ちゃうわ。早川くんとはとっくに終わってる。だから、あんたに……難波に言うてるんやんか。私が、あんたのこと幸せにしたるって言うてるんやんか」

 視線は足元のまま、私は視界にギリギリ映っている難波のスーツの袖を掴んだ。

「……お前、ほんまに言うてんの」

 少し震えた、難波のいつもより低い声。

 私は、返事をする代わりに一度だけ深く、大きく頷いた。

「……メリットは?」

「え?」

「これが最後の作戦項目。俺に、自分を売り込んでみろ」

 顔を少しだけ上げた。すると、難波はいつものように優しく笑っていた。