「それじゃあ、なんで……難波に付き合おうて言うたん」
「それは、何となくいい感じになってきたし、付き合わな出来んこともあるかなと思ったんです」
膝の上で作っている両手の拳が、ぴくぴくと震える。入れすぎている力のせいか、広げてみた手のひらには爪の跡が残っていた。
「ちょっといいかな、とか、何となく、とか。そんな軽い気持ちで付き合って……そん中には確実で確かな気持ち、ないの? 真剣に付き合うてるんじゃないの?」
ぎゅっと下唇を噛んだ。そうしていなければ、私は何故か今にも泣き出してしまいそうだった。
そんな私の様子に驚いているような様子の松井ちゃんは、私に遠慮がちに、ゆっくりと口を開いた。
「正直、今は、付き合うって段階で結婚は考えないですし、今も、今までも、そんな後先考えて真剣に付き合ったことは……ないです」
なんか、ごめんなさい。
そう付け足した松井ちゃんの言葉の後、私は両手を勢いよくテーブルについて立ち上がった。
「そんな中途半端な気持ちで付き合うて欲しなかった!私は……私はっ、難波に幸せになってほしいから、松井ちゃんやったらって思うたのにっ……‼︎」
堪らず大きな声を出してしまった私は、はっとして辺りを見渡した。
幸運にもリフレッシュルームに人はおらず、私の口からは小さな安堵の息が漏れた。
「安井さん……」
目を丸くして私を見る松井ちゃん。私は、そんな松井ちゃんに「ごめん」と取り乱したことを謝罪してその場を立ち去った。
ひとり会社の廊下を歩きながら、私は自分の起こした行動をひどく後悔した。

