「安井さん」
「え? なに?」
早川くんの声にはっとして、我にかえる。すると、私の目の前には心配そうな表情をした早川の顔があった。
「安井さん、ここ最近ずっとそんな感じですよね。何というか、心ここに在らずって感じで」
「そ、そう?」
そんな事ないけどな、と付け足してカクテルの入ったグラスを持ち上げた。
「僕の前では、あんまり無理しないでくださいね」
私の中の何かを見透かしているのか、早川くんはそう言ってから優しく笑った。
私は、そんな早川くんの言った言葉の真意は何なのかを考えたけれど、結局分からず。少しモヤモヤとした気持ちを抱えたままで私は早川くんと別れた。
早川くんと別れ、ひとりとぼとぼと行きつけのあの居酒屋へ向かおうとしていたその時、私の背後から私の名前を呼ぶ声がした。
「明菜ちゃん!明菜ちゃーん!」
「え……あ、秋加!」
振り向いた私に向かってぶんぶんと右手を振っていたのは、秋加だった。私は、秋加と同じように右手を挙げて振った。
だんだんと、おぼつかない足取りで私の方へと歩いてくる秋加は、間違いなく飲んだ後だった。既に相当酔ってしまっている秋加の身体を支えた私の鼻には、きついお酒の匂いがすっと入り込んできた。

