「あの、難波が言った注文って……」
体を元に戻した私は、右側に立つお兄さんの方に顔を向けて見上げた。すると、お兄さんは難波が去って行った入り口の方向を確認した後、にこりと笑った。
「郁人が言った注文っていうのが、まず大きなテーマとして、柔らかい雰囲気を作るってこと。具体的な注文としては、髪を暗めのブラウンにして肩にかからないくらいのボブにするって感じの注文を受けてんだよね」
「それじゃあ、私、髪真っ黒だからカラーするってことですよね? あと、ボブってことは……」
「軽く30センチ近く切ることになるね」
「ですよね」
腰とまではいかないけれど、おへそ辺りまではあるロングストレートの黒髪。しばらくこの長さでいた私が、一気にボブにするとなると、そりゃあそのくらいは切ることになる。結婚の為とはいえ、正直、これは大きな勇気がいるし、簡単に決断できることでもない。
「これは、言ったらダメだって郁人に言われてたんだけど……この注文、郁人、信じられないくらい真剣にしてきたんだよね」
「え?」
「安井ちゃんの事、俺と飲んでる時もよく話すし」
「な、なんで私の話なんか……難波、なんか悪口とか言ってませんでした?」
難波が、私の知らない友人の前で私の話をしている。その事実に、少しだけ照れくささを感じた。そして、難波が私のどんな話をしているのかが少し気になった。

