「笑いすぎ」

「だって、現実ではあり得へんようなラブストーリー見るために夜更かしして遅刻するお前、ほんま最高やで。まだまだ脳内は恋する乙女やねんな」

「なんなんよ!独身の29歳やって夢くらい見るわ!」

 難波の肩をもう一度叩いた。すると、難波は、そんな私を見て再び笑い出した。

「ふうん、安井ちゃんは郁人とここまで仲良いんだ」

 私達のやり取りを目の前で見ていたお兄さんがそう言って笑った。お兄さんの存在を一瞬で忘れてしまっていた私は、ハッと我に返って難波をもう一発叩こうとしていた手を止めた。

「ま、安井ちゃん、後は髪のお手入れとかしながらゆっくり話そっか」

 そう言ってお兄さんが私にウィンクをした。私は、そのウィンクにどう答えればいいのか分からずただ戸惑っていたけれど、難波に「気にすんな、あいつチャラいから」と言われてやっと落ち着いた。

 お兄さんが奥の方へと歩き出し、私と難波もそのお兄さんに続いて歩き出した。

 私達は、お店の一番奥にある椅子へと案内された。他の椅子は横に並んでいるけれど、私の案内された椅子は、一つだけ隅に孤立している。