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「……コウ! コウ!」

「ん?」

「問3、答えなんだ?」

「は?」

「当たったんだけど分からなくてさ。助けてよ、コウさま」

「……」

「俺、マジで黒板前で泣きそう」

「…………」



 後ろの席から俺を小突いてくるのは、悪友の市川(いちかわ)ユウ。

 ボーッととりとめのないこと考えていて、周りに気を配っておらず、ユウが先生に指名されていたことすら気付かなかった。

 そんなことを思いつつ、ユウのサラサラの猫っ毛を見つつ、思わず呟く。



「お前、女々しいのは顔だけにしろよ」

「ちょっ……! 人が気にしていることを!! そして、何気にダブル攻撃するの止めて!!」



 そう言って、ユウはヤられたーっと言いながら、机に項垂れる。

 そういうノリのいいユウは嫌いじゃない。

 そんなことを思いつつ、俺はユウにノートを渡す。



「ほら」

「え?」

「『ノリチャン』にイイとこ、見せたいんだろ?」

「コウさまっ!!」



 そう言って、ユウは俺のノートを握りしめ、物理の先生でもある「ノリチャン」の元に意気揚々と繰り出して行く。


 ユウは喜怒哀楽が激しくて、見ていて飽きないタイプ。

 とはいえ、俺にはない……素直さを併せ持っている天瀬かおりとは一味違う純粋なヤツ。


 だからこそ、無碍にすることも、突っぱねることもできないのだろうか。