嘘を吐けない彼女のために


 そんなことを思いつつ、ぼんやりと授業を流し聞く。

 別に、必死こいて聞かなければならないほど、危ない成績でもない。

 むしろ、天瀬が転校してくるまでは、俺が天瀬が君臨している座に座っていた。

 だからこそ、聞き流すだけで十分すぎるほど理解出来る訳なのだが……。

 何ともアンニュイな気持ちだけが俺の心のそこに渦巻いていく。


 それは、もっともっと、努力する価値がある事実も理解しているからであり。

 そしてまた、天瀬に敵わないと本能で脱帽している弱気な自分を把握しているからでもある。


 あんなに真っ直ぐな彼女に、あんなに紳士な彼女に……、俺なんかが敵う訳がない。



 自ら、負けを潔く認めようとする行為は、立派なのかもしれない。

 だけど、勝負前から逃げ腰な態度は、決して褒められるべきものでもないのかもしれない。



 世の中には、本音があれば建前もある。

 光の側の真実に隠れた、どす黒い闇の事実が隠されていることもある。


 それらをすべて理解した上で、なお思う。

 自分の浅ましさと、自分の卑しさとを、受け止めきれない中途半端な正義感だけ振り回す愚かな自分の幼稚さに、嫌気がさして、めまいがする。