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 気付いたのは、極々最近。

 彼女は嘘を吐けない人間らしい。


 『嘘を吐かない』ではなく『嘘を吐けない』と表現したことに、深い深い意図がある。

 自発的に嘘を吐かないように努力し、努力し、努力している……訳ではなく。

 どうやら、自然と嘘が吐けないような質に見えるところが、何とも憎い。


 真実は前者なのか、後者なのかは分からない。

 とはいえ、嘘を吐かないことはかなりの美徳であることは間違いない。


 だって、俺は……




 少なくとも彼女のような素直な生き方なんて、到底無理だろうから。


 そんなことを思いつつ、同じクラスメイトの天瀬(あませ)かおりを後ろの席からそっと見つめる。


 天瀬は何をやらせても、完璧だ。

 勉強、スポーツ、美術、家庭科……何をこなしても彼女を追い越す存在はいない。

 そして、極め付けは品行方正すぎるほどの真面目な性格。

 嘘を吐けない律儀な質。


 それらすべてが彼女の良さ……なんだろうけれど、何となくしっくりこないのは、彼女が転校してきて、奪われたポジションが少なからずあるからだろうか。



 ……実際のところ、自分でもよく分からない。