その言葉に私は固まった。


嫌な沈黙が流れる。


私は立ち上がって食器を片づけ始めた。


ガチャガチャ音をたてて洗った。


すっかり動揺していた。



そんな私の後ろに彼は立って、


「本当にごめん・・」


と言った。


洗い物を終えていつもの習慣で私はコーヒーを入れた。


テーブルを挟んで座る二人。


彼は煙草に火をつけた。


「一本くれる?」


と私は言った。


彼は無言で煙草を私によこした。


私は煙草は止めていた。


彼が止めろって言ったから。


一口吸って煙をはいた。


ゆらゆらと煙がのぼっていく。


それを目で追いながら私は彼の部屋を見渡した。


約2年、月1,2回の割合で泊まりにきていた。


久しぶりに煙草を吸った私はクラッと眩暈がした。


「もっと早くに言おうと思ったんだけど・・」


と彼は低い声で言った。


私を見ようとしない。


すがりつけば彼は思い直してくれるのか。


否。


私は彼の性格をよく知っている。


煙草を灰皿にもみ消して、私はバッグから合鍵を出してテーブルに置いた。


そして彼のアパートを出た。


当然彼は追いかけてなど来なかった。


夜の電車に揺られ私は家に帰って来た。


自分の部屋に入ってゴロンとベッドに横になった時、ラインが鳴った。


私は飛び起きた。


スマホを掴んで見た。


もしかしたら彼かもしれないと思ったから。